お菓子をくれなきゃ悪戯だ!
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


    3



所謂 酒場やクラブ、バーの類では、
酒飲みの付き物である煙草も売られており、
店によってはサービスとして配ってもいたようで。
それをバスケットなどに入れ、テーブルを回る係というのがあったとか。
新米の、若しくは色香の足らぬホステスや、あるいは少年が担当し、
一本からでもという融通を利かせてチップを稼いでいたそうな。
そんな彼らは シガーボーイと呼ばれてた…なんて記述を
どっかの小説か何かで見たことがあったのですが。
すいません、今となっては確かじゃないので 伝聞ということで。

 *そこから派生して、
  禁酒法とか禁煙法とかまでググッてしまいましたよ。
  (余談もいいとこなので、続きは後書きにて)

コンパニオンというほどのものじゃあないが、
宴に可愛らしい花を添えるという格好での賑やかし担当。
王様のお通りになる足元へ花びらを撒く少女たちよろしく、
上手に魔物へ化けた人には甘いキャンディをあげましょうという、
場を華やかに盛り上げる係への、十代の美少女たち部門へと。
ご贔屓筋には既にお馴染みという、
当ホテルの支配人夫婦の一粒種の御令嬢と
そのお友達を是非というお声が
招待客の方々から高まっておいでだとのことで。
愛らしいお顔に瑞々しい肢体、
凛とした立ち居といった、風貌見栄えのみならず、
品性素行にも一片ほども問題はなく。(……)←笑
責任感があったり、あるいは慈愛に満ちた言動から、
都内でも屈指という、歴史と品格で有名な 某お嬢様学園でも、
紅バラに白百合にヒナゲシという初夏の花になぞらえられ、
三華様なぞと冠されて、
生え抜きのお嬢様たちから 憧れの眼差しを集めておいでの彼女らは、
各界の著名な顔触れとも、意外なご縁で顔なじみだったりし。
それでのラブコールが掛かってもまま無理はないのかもしれないが、

 「立食形式のパーティーなのだけれど、
  ところどころで
  ビンゴ大会だの 仮装のコンペティションだのも
  幾つか盛り込まれている長丁場。
  そんな宴の開催を
  取締役の幹部の方が高らかに宣言するところまで。
  来賓の方々への話相手のような形で、
  この子だけじゃなく、
  お二人にもお付き合いいただけないかという
  熱烈なリクエストがあったものだから。」

  とはいえど。

彼女ら自身もまた、それぞれに良家の子女であらせられ。
そうでなくとも…年頃の娘さんたちへ、
縁も義理もない相手へ愛想をするよな“接待”を頼むだなんて、
お門違いもはなはだしいこと。
失礼は承知ですが、でもでも…と。
娘御から“彼女らも連れて帰るぞ”というお返事メールを受けて、
跳び上がって喜んでしまった自身の正直さ、
隠すなんて狡いと思ったか、紡ぎかかったお母様らしいのへ、

 「どうかお顔をお上げくださいませ、おばさま。」

草野さんチのお嬢様が、
手にしていたカップを置いてのそちらからもあらたまり。
そんな水臭いお言葉やご挨拶は要りませんことよと、
端正なお顔をほころばせつつ はんなりと微笑う。

 「こちらから楽しそうだって思ってのこと、
  勝手にやって来たという順番ですもの。」

 「そうそう、全然お気になさらず。」

林田さんチのお嬢様も、
うふふと愛らしく肩をすくめて微笑って見せて、

 「微妙にお行儀が悪かったり、
  お喋りが過ぎてしまったりしても、
  大目に見てくださったこと。
  こちらからこそどれほど有り難いことと思ったか。」

さほど改まった場ではなくたって、
花束を渡したりご挨拶をしたりには、
厳密な手順としての“お作法”というのがあるはずで。
茶道や華道などを多少なりとも嗜んでおいでの
白百合さんや紅ばらさんと違い。
そういうの、実は ちいとも
心得がなかったひなげしさんにしてみれば。
海外からの来賓のこぼしたアメリカンジョークを
通訳要らずで把握出来たそのまま先頭切って笑ったりもしたし、
場の空気というのへ後から気づいて
あたふたすることも無いではなくて。
でもね、あのね、

 「あれは、ヘイさんだったから。」
 「……。(頷、頷)」

そうしてくれたことで、
せっかくのジョークに笑い遅れが出てしまってのこと、
口にしたご本人が白けるというような艶消しにならなんだのだし。
しまった・てへvvという、困ったがための照れ笑いは、
居合わせた皆さんの気持ちを上手に取りまとめもしたのだから、と。
お友達二人が“や〜ね、何 言い出すの”と朗らかに執り成すのを見て、

 “…あら。”

表情も薄ければ、人との交際へもあんまり関心なさげ、
ともすれば引っ込み思案だったはずの 我が娘御までもが、
目元口許をやんわりとたわめ、
それは優しいお顔になっているのを見るにつけ、

 “本当に…。”

いいお友達が出来たことと。
大きな窓から差し込む秋の日和に 暖かく照らされておいでの、
それは和やか朗らかに笑いさざめくお嬢様たちを前に。
胸元に手を伏せ、
あらためて感じ入った三木夫人だったそうでございます。





     ◇◇



そうしてそして、あっと言う間に翌日となり、
暦は ハロウィン当日の10月31日。
勿論、平日のこととて、前日同様に学園へも足を運び、
それは流麗な古文の朗読でクラスメートの皆様を陶酔させたり、
体育の器械体操では、
平均台の上で鮮やかな伸身側転をご披露し拍手喝采を浴びたり。
来日なさってた学園長の姪御さんへの通訳を
イマドキの可愛らしい描写ふんだんにこなすことで、
ホームシックから一転、親日派にして差し上げたりと。
このレベルは日常茶飯だという、さりげない活躍をこなしてから。
放課後は放課後で、
学園祭の武道部の出し物、青空カフェの打ち合わせの詰めにと呼び出され、
配置図を敷いた卓の上、資材や食材の搬入の手際を打ち合わせたり。
講堂の舞台という本番と同じ場にて、
毎年恒例の賛美歌とそれから、
今年の聖歌との斉唱へのピアノ伴奏を何度も繰り返したり。
はたまた、校舎内の各所へ配された 美術部渾身のオブジェや絵画を
一斉点検だと見て回り、
センスは素晴らしいけれどとしつつも、
3日間という展示に耐えられるか怪しい強度の物へは
それなりの助言を伝えたり…と。
やっぱりお忙しいバタバタを抱えて
下校時刻までを過ごした三華様たちであり。

 「…そういや、
  クラスの方の模擬店はお手伝いしなくてもいいのかしら。」
 「そうでしたねぇ。」
 「………。(そういえば)」

でも私たちの役どころは当日のウェイトレスですし。
この際はお仕事免除に甘えてしまっていいのでは、と。

  ……白々しいでしょうか。

そこへも“サザエさん現象”が適用されていてとするならば、
またぞろ、良親さんが
ひなげしさんの作品へ悪戯しなくちゃならなくなりますかねぇ?
そして最終日には、バンド演奏で弾けるのですねvv お姉様たち。
まま、そこのところは よしなにということで。(こらー)

 「それでは参りましょうかvv」

学園の生徒としてのお務めが終しまいとなったとする、
下校の鐘が荘厳に鳴り響くのに送られて。
濃紺のセーラー服のプリーツ淑やかに揺らしつつ、
足元に舞い散る枯れ葉をかさこそ鳴らしての、
背条伸ばしての軽やかに。
いざ、お楽しみが待つバイト先へ、
まだまだお元気な足取りで向かったのでありまして……。






ホテルJには、
吹き抜けも高くて、アリーナ風の舞台も設けられるような、
それは大きな宴会場用広間が本館の最上階にある。
吹き抜けになっているということを利用しての、
勇壮な降雪や花火の演出も可能という、
照明や音響その他、各種の効果用機材も完備されており。
本格的な楽団の方々を招いた上で、
劇団や歌手の方の特別公演やディナーショーは勿論のこと、
華やかな演出つきの大きな授章式などなどを
余裕で開けることでも知られていて。
そんな広間が今宵は光沢のある暗幕に取り巻かれ、
品よく押さえたそれだろう、
ドレープが揺れるたびに煌くラメが星空のよう。
ゴシックホラーというコンセプトなのか、
コウモリのシルエットが装飾のあちこちに配されていて。
そちらもコウモリのアクリル製モビールが
アンティーク調の街灯を模した柱の上で揺れていたものが、
ゆらんと大きく傾くと……どういう仕掛けか
コウモリが全部、
黒猫たちが駆けてゆくシルエットへ転じてしまい、

 「ありゃ、可愛いvv」
 「ホントですねvv」

空調こそしてはいるのだろうが、
そこまでの風なんて吹いてはない場内だから。
揺れていること自体、実は仕掛けがあってのものなんでしょうねと、
連れのお友達へと語るお嬢さんへ、

 「おお、林田せんせえのところの。」

オレンジと浅い茶という、
ツートンのカボチャカラーがあしらわれた蝶ネクタイの、
一応はシックなスーツの上へ、
それこそが仮装か…わざとらしい毛糸でのつぎはぎを
アップリケのようにあしらった白衣をまとった男性が、
おーいと手を振って見せる。
年の頃は久蔵の主治医せんせえと同じくらいか、
とはいえ、愛嬌のあるお顔はもっと若くも見え、
なかなかの取っ付きやすさであり。

 「あ、善法寺せんせえvv」

わあと嬉しそうなお顔になって
“おいでおいで”へ素直に寄ってった黒猫少女らへは、
周囲からの視線も おおとか あらとかいう
微笑ましいものへのお声と共に、集まること集まること。
ゴスロリ衣装と言われたものの、基本的にはメイド服っぽいそれで。
黒いベルベットの、フレアをたっぷりとったワンピースへ、
裾やら袖口、ウエストの切り返しやらに、
レースの縁飾りやフリルが やはりたっぷりとまとわされた
白地のエプロンドレスを重ね着て。
髪にはお決まりの猫耳のカチューシャを装着、
エナメルの靴はストラップつきで、
白いソックスもはいてと、どこか幼く見える演出がされており。
それぞれのスカートの後ろには、
特殊な素材性なのか、
ひょこりと立ってる長い尻尾がゆらゆらり。
基本は同じだが、よくよく見れば
一人は半袖に白い長てぶくろ、
別の子はパフスリープから伸びるスリムな長袖だとか。
細い喉元を隠すかっちりとした立て襟の子がいれば、
別の子は白い丸襟だが
やや広く空いている襟ぐりから鎖骨のくぼみが覗いていたり…という
微妙なお遊びが取り入れられているのが、
ちょっとした間違い探しのようでもあって。

 「ああそうか、こちらのお嬢さんの。」
 「ええそうよ、久蔵さんとお友達の。」
 「確か、日本画家の…。」
 「そうそう。それから…」
 「先だっては、
  新しいモバイル機器の発表で来日してらして…。」
 「ちゃっかりと紛れ込んだのかな?」
 「まさか、そんなことはないのでしょうが。」

 なんてまあ可愛らしいこと。
 どちらのお嬢さんも色白だし髪もつややかで。
 モデルさんやコンパニオンが霞んでしまいますわね。
 え? あ・ええ、いただけるのね、ありがとう。
 キャンディを配っておいでなのですよ。
 おやそれは可愛い趣向だこと…と。

早速にも、
会場内の皆様からの
注目を集める存在となっておいでの3人娘。
彼女らが入場してすぐにも駆け寄った先、
善法寺なぞという四角い名前の“せんせえ”は、
平八が親御さんの知己つながりとして知り合いだそうで。

 「こういう場に来られるなんてお珍しい。」
 「なに、教授のお供だよ。」

しかもとっとと帰ってしまう心積もりもぷんぷんでねと、
困ったもんだなんて肩をすくめる所作も、
少しも気取らずの気さくなそれであり。
学者せんせえにしては
ちょっとした言い回しの中に、軽妙な洒脱さの多い人。
そんなところに気がついては、
こちらのお嬢さんたちも ころころと軽やかに笑ったりするものだから。
あっと言う間に人々が集まる“場”となっている始末。
他にも同じキャンディガールは数人いたので、
何も会場内を隅々まで歩き回る必要はない、と言われていたし。
ちょっとした人だかりになったことで、
他の顔見知りの皆さんにも見つけてもらえやすくなり。
それをもって、
効果というか 見込まれた義理というかも果たせたようなもの。
やがて開宴の時間が近づいたのか、
場内の統括担当スタッフの方からの合図、
彼女らへと持たされていた 今時珍しいポケベルが、
うにゃぁ〜お、みゃおみぃと一斉に鳴き出したため。

 「あ。」
 「開幕。」
 「……。(頷)」

ありゃりゃあとお顔を見合わせた彼女らだったのへ、
周囲の大人の皆様も察したようであり。
ではごきげんようとの一礼も慌ただしく、
たかたかという急ぎ足で、
光沢のある五色七彩、
カラフルな垂れ幕がオーロラのように重なった真下、
特設のステージ前へ集合と相なった黒猫さんたち。
やはり、どの少女らも微妙に装いが変えてあり、
そんな彼女らが、バスケットを提げたまま
舞台を挟んでの左右へ居並んだところで、

 【 お集まりの善男善女の皆様、
   今宵は年に一度のハロウィンナイトでございます。】

主催商社の社員の方か、
それにしては場慣れしておいでだからタレントかも知れぬ、
漆黒にかすかなラメを散らしたタキシード姿の進行役が、
マイク片手にそうと喋り始めて。

 【 地獄の蓋が開いて、亡者があふれる晩ではありますが。
   そんなことなぞ何するものぞ。
   楽しくも騒がしい一夜を過ごし、
   ついでに世の憂いなんて吹き飛ばしてしまいましょう♪】

華々しいポーズで、指揮を執るかのように片手を振り上げると、
勢いよくトランペットやサックスといった金管楽が主体の演奏が始まって、
あちこちでクラッカーを鳴らす音が弾け、紙吹雪が舞う。
いくらなんでも乱痴気な騒ぎにはしなかろうが、
それでも随分と賑やかなパーティーなのだろ様相は窺えて。
談笑が始まった場内を見やりつつ、
大人って無邪気だよなぁなんて、
ちょいと上から目線で思ってしまったお嬢様たちだったのは。
依頼されていたお務めが これにて終了と相なったからでもあろう。
それでも一応は、にこやかなお顔のまんま、
打ち合わせにしたがって、
ファンファーレがストリングスの演奏へと切り替わるまで
各々の立ち位置を動かずにいたし。
並んでいた端から順番に、
今度はお酒入りのチョコボンボンを配るのらしい、
セクシー系のお姉様魔女たちが入って来るのと入れ替わりになる趣向、
きっちりと勤め上げた三人娘らであり。

 「はあ、面白かった。」
 「ホントだねぇ、大人でも仮装ってやるんだ。」

ついついキャッキャとはしゃいでしまい、
暗幕の後ろ、バックヤードの通路を固まって歩いてしまいかかったが、

 「ああ、ほらダメダメ。」

ハッとした七郎次が、真っ先に気がついて、
会場へ向かう様々な担当の方々のお邪魔をしないよう、
一列だよんと並び直すよう姿勢をあらためる辺り、

 “う〜ん、おさすが。”
 “シチ、カッコいいvv”

残りの二人が
まずはの“身内惚れ”していちゃあ世話はないのだが。(笑)
他の猫娘らは同じ階に設けられた控室に戻ってゆくようだったが、
こちらの3人は、まずはと
支配人でもある久蔵お嬢様の母上へ挨拶をしておこうと、
総務事務室のある一階を目指す。
ホテルというのは
部屋から外は屋外同然の公共の場と思うのが最低限のマナーで、
そこを仮装のまんまで歩くというのは微妙かもしれないが。
従業員用の通路やエレベータを使うならまま構うまい。
何より、支配人室にて着替えをさせていただいたので、
荷物も服もそこへ置いたままなのだ。
そんなエレベーターゲージの止まるホール前まで辿り着き、
丁度、お料理でも運んで来たものか
降りてったばかりだと示すインジケータを見上げつつ、
それぞれの手にあった小物に、
ここで気がついたところもお揃いだったお三人。

 「…と。このバスケットは置いてった方がよかったかなぁ。」

内側にはギンガムチェックの布を張ってあるが、
外側はいい飴色の出た丸い籐籠のバスケット。
まだ随分とキャンディも残っていて、

 「これって ごでゅばだよねぇ。」
 「キャンディもあったんだvv」

さすがに会場では摘まめなんだが、
1個くらいは構いませんでしょうと、
視線を交わし合ってから、ふふvvと示し合わすように微笑うと
それぞれが1つずつを手にし、
両端が絞られた
お馴染みの包みをシュッと解いてのお口へ放る。

 「あ、しつこくない甘さ〜。」
 「キャラメル・ガナッシュなんだ。」

美味しい美味しいと頬をゆるめた、白百合さんとひなげしさん、
現在、珍しくもメイド服 着用中のお二人だったが、

 「〜〜〜〜。」
 「? どうしましたか? 久蔵殿。」

ひとり、包みからほどいたキャンディを手に乗せたまま、
彼女だけが食べないまんま、
どうしたものかと目許をすぼめておいでの紅ばらさんであり。
何だ何だ、飴じゃあなくてアーモンドでも入っていたか、と。
首を伸ばしたり真横へまで寄って来ての
白いお手元を覗き込んだお友達二人が、

 「………。」
 「それって…。」

やはり言葉を無くし、笑顔でもなくなった。
だってそこにあったのは、アーモンドやキャンディにも似てはいたものの、
しゃれたカットがなされてあった縦長の
…どう見てもダイアモンドらしき宝石だったのだもの。



  「……また、このパターンなわけ?」


   パターンとか言わない。(う〜ん)






BACK/NEXT


  *人が集まる場面とか、主人公たち以外のお人が出てくる場面で、
   しかも名前が要りようなとき、
   ○○さんとか、A氏B氏というのにも限りがあって困ります。
   今回ご登場の、ヘイさんの知り合いらしい博士せんせえ、
   何か仰々しいお名前ですが、
   特に意味のあるお人ではありませんので念のため。
   関係者かなと殊更に用心なされませんように。
   つか、登場人物の多いまんがに浮気中ゆえのお遊びです。(笑)
   善法寺博士、下の名前は伊作です。
   共同研究している教授は素材学の権威で、
   破れないバレーボールの研究してるとか。
   ……判る人がいたらお友達。(いないって)

  *さて、本文で ちらと触れた“禁煙法”について少々。
   (お話には全くの全然関係ないので
    スルーしてくださって一向に構いません。)

   煙草を酒場や賭博場など良からぬ場所に付き物とするのは、
   とんだ偏見だと思われそうですが。
   あの“禁酒法”がアメリカを席巻した折に、
   実は禁煙法も寄り添うように施行されてたそうでして。
   今現在も、人が集まる公的な場所での喫煙は
   徐々に禁じられて来ておりますが、
   そんな穏やかなマナーレベルの代物じゃあない、
   様々な活動団体が一致団結し、
   社会の害毒として追放しなくちゃあと構えたそうで。

   まずはのお酒の方ですが。
   そも酒というのは神様から賜ったもの、
   人間とは神話の時代からのお付き合いで、
   祝いの席や神聖な場にも必ず登場しているほどですが、
   とはいえ、過ぎるとろくなことにならぬ。
   だというに、それを乱用させるような酒場は社会の害でしかない。
   酩酊した(主に)男らは、乱暴になる、娼婦を買う、騒ぎを起こす、
   意識がおぼろな中で手元を狂わせ、事故や火事を起こすなど、
   常に問題視されており。
   殊に、南北戦争も落ち着いて、
   あの広大な領土を連邦として統合したアメリカでは、
   様々な市民運動が盛んだった中、
   大統領選挙の公約にもしばしば、
   禁酒法を制定せねばというのが掲げられていて。
   それがとうとう世間の声という力を得、実行に移されてしまった。
   その過程の中では、
   ビール業者とウイスキー業者が足を引っ張り合うという、
   言わば身内同士の確執なんてのもあったそうで。

   禁酒法と言えば
   アンタッチャブル、若しくはアル・カポネと来るほどに。
   私の世代だと、有名な海外ドラマや映画の影響も強く、
   てっきり、先に非合法組織の暗躍あっての
   規制や禁止かと思ってたほどですが。
   実は順番は逆で、
   規制によって表立っては作ったり売ったりできなくなった酒を、
   暗黒街の組織が一手に扱って莫大な利権を得た
   ……という順番だったワケですね。

   ともあれ、1919年から1933年までという
   およそ14年に渡る連邦法が席巻したそれに沿って、
   (というか地域によっては もっと早くから)
   反シガレット法というのも制定せよという運動が起きたそうで。
   煙草の方は大航海時代以降もたらされたもので、
   酒より新しい嗜好品ですが、
   喫煙によるちょっとした酩酊が受け入れられたのでしょう、
   あっと言う間に 一般市民や労働層にまで広まった。
   とはいえ、こちらも過ぎれば発癌率の高い毒ですし、
   後始末の不全から火事も多発。
   欧州で広まったころから既に危険な代物とされていた。
   酒場で供されることが多かったことから、
   一緒くたにされた地域も少なくはなかったのでしょうね。
   こちらは“連邦法”へまで至らなんだそうですが、
   それでもアメリカのほぼ全土で禁止とされたそうです。


   ちなみに、禁酒法は
   アメリカの実情を見た近隣諸国がこぞって醸造し密輸しまくったのと、
   医薬品のアルコールまで製造禁止としたのへの反発が強まったこと。
   関係者が水面下へもぐり、
   暗黒街を儲けさせるだけという盲点を無視できなくなったことなどから、
   結局は、多少の規制を遺しつつも撤廃されたそうですが。
   煙草のほうは
   フィルターをつけたタイプを発案して
   健康被害を抑制する傾向を業界が見せたことから、
   やはり撤廃されたいったそうです。


戻る